思い

フリーランス

2020年3月に長岡技術科学大学を退職して同年4月からフリーランスとして働くことにしました。これまでお世話になった自然言語処理という分野に恩返しするため、引き続き大学で働くよりも、地位も肩書きも収入もすべて返上して一人の技術者として自分の思う活動をしたいと考えたのがその理由です。

仮に社会的活動が65歳で終了(引退)とすれば、私にはあと10年ちょっとしか時間が残されていません。この時間を、自然言語処理の普及・振興の活動と、どうしてもやってみたい研究に打ち込むために使いたいと考え、ずっと前から準備を進めてきました。研究するのに何年もかかる、評価されない、もちろんうまくいく保証もない、その結果誰もやっていない(ように見える)研究、こんな研究は誰もやりませんよね。でもそれが必要だと思った私はこの選択肢しかないと判断しました。学生に自分の研究を押し付けるのは嫌いですし、もっと業績を増やせ研究費を稼げといやみを言われ続けながら研究するのはそろそろ終わりにしたいと思いました。

つまり、研究をするために退職しますが、自分のやりたい研究のみを行い、誰かに依頼されて研究する(=研究でお金をいただく)つもりはありません。自分のやったことを記録に残すために学会発表はするでしょうが、査読原稿はもう書かないでしょう。もう人に評価されるよう努力する(いわゆるマウンティングを取る)必要はなく、自分の考えたことができるかどうかを自分で確かめる、ただそれだけです。自己満足と呼んでいただいても構いません。

ということで職業としては研究支援のフリーランスとなりますが、フリーランスという職業が大変なのは理解しています。看板を立てればすぐ仕事がいただけるような甘い世界ではなく、収入はほとんど見込めないので(現時点で全くアテはありません)、国立大学教員と比べれば明らかに生活は不安定です。もし今すぐ転職活動をすれば拾っていただける会社はあるのかもしれませんし、自分で会社を作れば大きな仕事ができる可能性はありますが、私の目指すものはそこではありません。経済的に困窮するまではフリーランスでやりたいように活動させていただき、貯金が底をついたら素直に職を探そうと思っています。その際はまた全力で働きますのでどなたか拾ってください。

自然言語処理は今、とても良い環境にあります。私が研究を始めた1990年以降では最も恵まれた環境にあり、今後さらに産業として拡大していくことが予想されます。そんな中で、自然言語処理を導入したシステムを作ってみたけれど思ったほどの性能が出ず、期待を裏切ることがよくあるのではないかと私は予想しています。この状態が続けば、自然言語処理が使えない技術と認識され、分野が先細りするのではないかと心配しています。自然言語処理は技術的に途上の技術で、やらなければいけないことはたくさんあります。また現状を正しく理解し、技術を正しく使ってもらう啓蒙も必要です。そんな、分野において手薄となっている部分のお手伝いをすることが自分の役割なのではないかと感じています。

山奥にこもる仙人にはなれそうもありませんが、ゆくゆくは自然言語処理の「駆け込み寺」、あるいは「おばあちゃんの知恵袋」みたいな存在のフリーランスになれればいいなと思っています。草の根の自然言語処理フリーランスをどうぞよろしくお願いいたします。

(2019年8月6日)